039
薔薇

真っ白な浴室に落ちた、一滴の紅い雫。

其れは、昔、神が葡萄酒と云ったものであり
人間の体中を流れる、生温かいもの。

一滴だった雫は、段段と広がり、
其処は、深紅の薔薇色に埋め尽くされた、
素敵な絨毯となった。

まるで、スポットライトを浴びるが如く
妖しく光る紅色の絨毯。
其れは、紛れもなく、
私の左手から滴り落ちる、大量の血液だった。

私の腕は、とても醜いものになっていた。
何度も斬り付けられた跡。
幾つもの痂。縫った跡。

一番新しい傷から、沢山の血が、流れていた。

私の腕は、醜かったけれど、
其処から流れる血液は、とても美しかった。

まるで、深紅の薔薇のように…。

1つ前に戻る
最初に戻る

© 2005 Uri.